Apple M1 と新型Mac

今回はAppleのM1プロセッサとその展望について、少し書いていこうと思います。

期待の新人?

パソコン用のCPUの命令アーキテクチャとしては長らくIA32、及びその発展型であるAMD64(x86-64)が広く使用されてきており、また現在も広く使われています。

そんな中で登場したのがAppleのM1チップを搭載したMacでした。

今回新たなM1プロセッサが搭載されるようになったMacですが、以前のモデルではIntelのCPUが使われていました。
そしてその命令セットはx86-64がベースになっています。

対して、M1チップは既存のx86-64の命令アーキテクチャとは異なる、ARMv8-A命令セットが採用されています。
過去には異なる命令セットを持ったCPUを搭載した、様々なパソコンが販売されていた時代もありましたが、近年はx86-64アーキテクチャのCPU搭載モデルに集約され、いつの間にかそれが当たり前の光景になっていました。
そこに現れた久しぶりの新人がM1チップ搭載のMacといえるでしょう。

既にあちこちでベンチマークなどのレビューが公開されていますが、その性能は同グレードのIntel CPUを搭載したモデルと遜色なく、消費電力対処理能力比という面で言えば、明らかに優れているといえる結果が踊っています。

叩き上げの新人

とはいえM1チップ自体は本当の意味での新人とは言えないかも知れません。

M1チップはAppleがこれまでに手掛けてきた、iPhoneやiPad向けのSoC(System on a Chip)がベースになっているからです。

Appleは2008年に半導体設計会社のP.A. Semiを吸収した後、iPhone 4用のメインチップを独自に開発するに至りました。

ただ、まだこの頃はSoC内のコアCPUアーキテクチャはArmからライセンスされたIPをほぼそのまま使用していました。しかしApple A6チップからは命令セットの基本的な部分は維持しつつ、CPUコアを独自に設計するようになります。

これ以降、同社のiPhoneやiPad用のメインチップは独自設計のCPUコアが組みこまれることが当たり前となり、そのコア自体もコンスタントに改良されていきました。

つまりスマートフォンの市場も性能も右肩上がりで伸びていく中、他社との激しい競争を経て市場の最先端を走ってきた訳です。
結果として、そのCPUコアは非常に磨き上げられたものになりました。
その処理速度や電力効率は従来のPC向けのCPUと比較しても、全く遜色のないものです。

そして昨年、その技術を応用してAppleはM1プロセッサを開発し、それを搭載した新型Macを発表しました。

おそらくAppleにとってそれは満を持しての発表だったことでしょう。

次なる一手は

現状のM1チップは正確にはCPUではなく、それ自身を含むSoCです。

これはiPhoneやiPad向けのApple Axxチップと同じように、CPUコアのみならずそれ以外の複数の機能を1つにまとめたものになっています。

パソコンでこのような構成をとったことは拡張性といった面では不利になるものの、性能や電力効率といった面では既存のシステムと比べてアドバンテージがあります。

不利な拡張性の面においてもAppleは自らチップを設計することが可能なため、将来的には必要に応じてチップそのもののバリエーションを増やして対応していくことは考えられます。

例えばサーバーのような用途であればビデオ周りのユニットは必要無いでしょうし、AI系のユニットもまた必要無いでしょう。代わりにより多くのCPUコアを実装するかも知れません。またこの場合メモリなどIO周りのインターフェイスも合わせて変更の余地があることでしょう。
逆にAIに特化したシステムを作るのであれば、CPUコアとビデオ周りのコアを最小限にして、AIのコアを増やすということも可能でしょう。

そういったバリエーション違いを生み出すことは、経験豊富な設計部隊を持っている現在のAppleであれば比較的容易と思われます。

これは既存のCPUやSoCを買っているだけのメーカーには出来ないやり方です。

また委託とはいえ、既にiPhoneやiPad向けのチップを大量に生産していることはAppleにとって有利に働きます。

Appleは現在自社設計のチップを台湾TSMCに生産委託しており、TSMCでは現在最先端の5nmプロセスでApple向けのチップを大量に生産しています。

しかしこのラインで他メーカーが新たに製造を委託することはほぼ無理でしょう。
現在はどの半導体のファウンダリも生産が一杯一杯の状況であり、新たな増産は難しい状況だからです。

AppleはiPhoneやiPad向けに大量にチップが必要と見込んで、以前からTSMCと契約を結んでいたことでしょう。
そして現在はそのラインの一部を使ってApple M1を生産しているものと思われます。

言うまでもなく、最先端のプロセス下での半導体の生産を前提とすることは、高い性能や高い電力効率を実現するチップを設計するにあたって、大きな強みになります。

Apple M1の素性の良さは設計部隊の優秀さと同時に、優れた生産設備あってのものでしょう。

しかしその優れた生産設備を使った製品を市場に送り出せるメーカーは現在のところそれほど多くはありません。

Appleは現在、それが可能な数少ない企業の一つとなっています。

まとめ

こう書いて行くと、Apple M1を搭載したMacが市場を席巻してもおかしくないように思われるかも知れません。しかしもちろんそこまで単純には行かないでしょう。

最大の問題はそれを搭載した製品がMacであるということです。
別にApple M1搭載のMacが製品として悪い、というわけではありません。

問題はOSのシェアという面において、現在Macは20%もいかないことです。
つまり大半の人はMacを使用していません。

多くの人は使い慣れたシステムを使い続けることを好みます。
またソフトウエア的な環境や周辺機器の対応度など、OSによって大きな差異があることも事実です。

そのため、そういったハードルを乗り越えてでも新しいMacを使いたい、と思う人がどれだけいるか、どれだけ出てくるか、そのことがApple M1搭載Macが大きく躍進出来るかの鍵になるでしょう。

個人的には持ち運べるPCとしてApple M1プロセッサ搭載のMacBookシリーズは検討に値すると思います。
持ち運ぶ場合は電池もちの良さは重要です。そしてある程度の性能があることもです。

Apple M1プロセッサ搭載のMacBookはその条件に十分に値することでしょう。

ただ、もしこれを読んでくださっている方がApple M1プロセッサ搭載のMacの購入を検討しているならば、その上で何をするか、ということは十分に考慮する必要があると思います。

Windowsのドメインに参加したいとか、ゲームをしたい、という方がMacを選んでも困ったことになるでしょうから。

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